無料義歯相談(歯科医師限定)
総義歯ゼミナール
FAQと回答(放言高論)
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Q上顎総義歯が外れる
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A適合に問題がなければ、辺縁封鎖の不足か患者さんの使い方の誤りです。以下の事柄が適切に行われていれば吸着力は強くなり、片側性平衡咬合も達成できます。 |
●辺縁形成
常温重合レジン系材料(ペリモールド、即重レジン)と咬合堤付き個人トレーの使用が最適です。
最初に、ポストダムを形成します。
トレー後縁部に練和した即重レジンを盛り、圧接後に咬合させます。
次に、ペリモールドで辺縁形成をします(いずれもシリコンパテぐらいの硬さ)。
唇側はできるだけ短くします。
小帯部は縦方向の牽引のみで横には広げません。
それぞれ、術者の手指によって咬合させた状態で形成します。
バッカルスペースの封鎖には長さと厚みが必要です。
最大開口と側方運動を患者さんに指示し形成します。
※骨鋭縁や骨隆起が障害となる場合は外科的切除が必要です。
●排列
リンガライズドオクルージョン様排列にします。
上顎機能咬頭は必ずしも下顎中心窩に当てる必要はありません。
下顎咬頭を削除すれば、排列の自由度が増します。
臼歯人工歯を頬側寄りに排列すると義歯が不安定になるので、咬合堤を咬合面側から押し、容易に転覆しない位置に排列します。
人工歯の頬舌幅径は天然歯と比べて小さいので、舌房への配慮は基本的にはしなくて良いと思います。
それよりも、咀嚼時に義歯が安定していないと舌運動を妨げてしまいますので、辺縁封鎖による吸着と排列位置による安定が優先です。
ケースにより、交叉咬合(バッカライズド)も検討します。
前歯排列はオーバージェットを1mm以上確保します。
オーバーバイトは可及的に小さい(浅い)ほうが義歯の安定に有利ですが、審美性を優先します。
前歯が咬合すると辺縁封鎖が破れやすくなり、吸着が甘くなるので、メインテナンス時にも注意をします。
●咬合採得
顎位に正解はありません。但し、水平的顎位の大きなズレは吸着に影響します。
●咬合調整
中心咬合位でのコンタクトは456,56,46のいずれかで咬んでいれば良いと思います。
側方運動で強い咬頭干渉があれば除去します。
咬合採得や咬合調整にナーバスになることはありません。顎関節の退行性変化もありますし、粘膜上の義歯のことですからアバウトな側面もあります。囚われないことです。
それよりも辺縁封鎖を確実に行いましょう。
義歯が吸着していれば、あとは何とかなります。
製作ステップは、咬合採得→辺縁形成→咬合圧印象の順が合理的です(保険・自費共)。
以上が製作の要点です。
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さて、食事に使わないのならこれで解決です……?
もし、食事に使うのであればこれだけでは不十分です。
なぜなら、義歯が一番動揺するのは食物介在時だからです。
さらに、その硬さや大きさが増すほど動揺も大きくなります。
当然の帰結として、辺縁封鎖が破れ上顎義歯が外れます。
かといって、食事内容に強い制限をかければ患者さんのQOLを奪ってしまいます。
それは、義足装着者に坂道や階段をのぼるなというようなものです。
そもそも、義歯や義足は道具です。道具にはすべて使用方法があります。
なので、患者さんには正しい使い方を体得してもらう必要があります。
では、どうすれば良いでしょうか?
必要なのは、患者さん自身が義歯を大きく動揺させない食べ方の工夫です。
歯科医師の咬合調整では解決できません。
咬合調整で安定を図る方法は昭和時代の発想(吸着技術の不足を補うため)です。
まずは、患者さんに最適な位置で咀嚼をするよう歯科医師主導でトレーニングをしてもらいます。
但し、歯科医師が口頭で指示するだけでは、トレーニング効果は現れません。
その理由は、咀嚼は歩行と同じくオートマティックな無意識運動だからです。
この無意識運動に歯科医師が積極的に介入することにより、動揺がコントロールされ、早期に痛みや外れる等の問題を解決できるのです。
この手法は、FDだけでなくPDにも応用が利きます。
義歯製作と装着後のリハビリ・トレーニングは車の両輪と同じです。
なぜ、義足にあって義歯(臨床・学問)にそれが抜け落ちているのか?不思議です。
リハビリテーション・自主トレーニングについては、拙論、季刊歯科医療『総義歯アルゴリズム3』2020,秋号をご覧ください。図表で解説をしています(DVD/歯科医療情報研究所,歯科医療総研にても発表)。
義歯の吸着が良好にもかかわらず受けるクレームの真の原因が分かり、迷路の出口が見つかると思います。
追い質問があれば『熟練Dr.に訊け!』コーナーでお受けします。
次回のFAQと回答(放言高論)は『上顎シングルデンチャーが難しい』です。
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総義歯ゼミナール講師 |
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講師 小枝一彦(歯科医師)
1987年朝日大学卒業
2004年大阪府和泉市にて「こえだ歯科」を開業
大学卒業後30年にわたり、総義歯臨床の研究に打ち込み、近年、リンゴ丸かじりを可能にし、装着後の調整回数が少ない総義歯アルゴリズムを開発。この度、契機を得て発表に至る。
現在、こえだ歯科の義歯を求めて、遠方からも多くの患者さんが来院する。
季刊歯科医療
『総義歯アルゴリズム』連載 第一歯科出版 , 2020 .
DVD:義歯治療でオンリーワン戦略-競合知らずの歯科
医院ブランディング法、歯科医療総研 , 2019 .
DVD:調整減らす!リンゴ丸かじり総義歯革新、医療情報研究所 , 2017 .
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